[東京 19日 ロイター] - 大手損害保険各社が、政策保有株式の削減を進めている。近年は年間1000億円以上の株式を売却してきたが、今期以降もその取り組みを継続していく方針だ。ただ、株式保有シェアを重視し保有額の大きな損保の商品を優先的に購入する「お得意先」も存在し、政策保有株の削減には「副作用」も残っている。

持ちつ持たれつの商慣行と決別する経営の「強い意志」が試される。

最大手の東京海上ホールディングス(8766.T)は、2017年3月期に政策株を1170億円売却した。今年度を最終年度とする中期経営計画では毎年、1000億円以上の売却を掲げているが、同社の藤田裕一専務取締役は19日の決算会見で「次期中計も、同じレベルで売却を続けたい」と述べた。

MS&ADホールディングス(8725.T)の17年3月期の政策株売却は1330億円。今年度が最終年の中期経営計画では売却目標を5000億円としているが、すでに前期末に4052億円となり、「(目標ペースを)超過達成している」(藤井史朗副社長執行役員)と成果を強調する。

損保各社にとって取引先株式の保有は、取引関係を強化するという効果がある一方、価格変動を通じて財務のリスク要因になるというマイナス面もある。

また、企業統治への問題意識が高まるなかで、「持ち合い株」など政策株の存在が、発行体企業の経営陣に対する株主からの規律を充分に機能させない要因になっているとの批判もある。

このような背景から、損保各社は、近年、具体的な数値目標を掲げて政策株の削減に取り組んできた。

政策株の売却には、別のメリットも存在する。取得からかなりの年数がたっている銘柄が多く、時価と簿価の差が大きいため、処分によって多額の売却益を手にすることができる。

17年3月期に5期連続最高益を計上したSOMPOホールディングス(8630.T)は 1098億円の政策株売却を実行。辻伸治副社長執行役員は、自然災害の減少などを主因とする保険引き受け利益の増加に加え、政策株の売却による資産運用益の貢献を挙げた。

さらに政策保有株式の減少は、保険会社の抱えるリスク量の削減につながるため、リスクに対して必要とされる資本の量も減る。その結果、配当などの株主還元の原資となる余裕資本であるキャピタルバッファーが増加する。

各社とも時価で1.5─2.6兆円の政策株を保有しており、ゴールドマン・サックス証券のアナリスト、田中克典氏は「政策保有株式売却のみを考慮しても、今後4年間で生み出されるキャピタルバッファーは、4000─8000億円程度」と試算。「市場からはこれらの使用用途が注目されている」と、株主還元強化に期待を寄せる。

今後の売却については「保有するすべての発行体とわれわれの考えを話し、各社の事情を考慮して取り組みを進める」(MS&ADの藤井副社長)と、各社とも「岩盤」にすぐ突き当たることはないとの見方を示す。

取引先企業でも、自社が保有する持ち合い株についてその正当性を説明する必要が高まるなか、損保会社による売却にも理解が進んでいる。

それでも、大企業取引の営業現場からは「今でも保有株割合に応じた取引をする顧客企業が存在する」との声も聞かれる。

ギブ・アンド・テークで保険契約を取る手法は、政策株に限らない。ある大手損保の営業担当者は「お客先の製品やサービスをどのくらい購入しているかで、契約を決められてしまうところもある」と打ち明ける。「結局そういう形でしか仕事が取れないというのは、自社の商品が差別化ができていないということかもしれない」と語る。

政策株の削減は、リスク量削減や余剰資本の捻出という狙いとともに、従来の「持ちつ持たれつ」の商慣行から、商品自体の魅力で競争するという経営の「強い意志」と実行力が問われる問題でもある。

(浦中大我 編集:田巻一彦)