[東京 18日] - 17日の為替市場では、ドルが急落し、全面安となった。トランプ米大統領が2月に、ロシアとの癒着疑惑を巡るフリン前補佐官の捜査をやめるよう、在任当時のコミー前連邦捜査局(FBI)長官に圧力をかけたとされる問題が急浮上、大統領辞任リスクも取り沙汰されるなど、政権に対する風当たりが一段と強まっている。ドル円は一時111円を割り込む水準にまで急落した。

一見するとパニック的なドル売りだが、米金利の動きと連動している点は見逃せない。

2018年末にかけての追加利上げ回数の織り込みは、先物金利から計算すると、16日の2.6回から17日の2.2回まで急低下している。利上げ織り込みが3.0回で1ドル=115円、2.0回で110円というのが年初来の相関関係に基づく目安であるから、ドル円が113円から111円まで下落したのは、ある意味「計算通り」だ。

もちろん、日足一目均衡の雲や、「マクロン・ラリー(仏大統領選における中道派・マクロン氏の勝利)からのフィボナッチ38.2%戻し」といった重要なチャートポイントが重なりあっていた112円ちょうど前後のレベルを大きく割り込んだため、112―113円台を取り戻すには手間取ると想定せざるを得ない。

市場の不安心理を表すVIX指数が8日、1993年以来となる一桁まで低下するなど、楽観ムード一色だった中での今回の不意打ちでもある。「トランプリスク」を痛烈に印象付け、投資家心理にダメージを与えた可能性も高いだろう。

しばらくはロシアとトランプ大統領を巡る「ロシアゲート」問題が相場の重しとなりそうである。今回の件は、コミー長官解任に反発したFBIが、情報リークという形でトランプ大統領に反撃を加えたとみられる図式となっているだけに、追加情報が漏れてくるリスクもくすぶる。

<万が一、大統領辞任でも狼狽は禁物>

しかし、ここは冷静に考えたい。第1に、トランプ大統領に弾劾手続きが取られる、ないし辞任に追い込まれるリスクは低いはずである。弾劾のプロセスに入るには下院の過半数および上院の3分の2の同意が必要だが、2018年秋の中間選挙まで余裕があるこの段階で、共和党メンバーが「トランプ降ろし」に動くとは考えにくい。現在、共和党支持層の大統領支持率が8割程度と非常に高いことを踏まえておく必要がある。

第2に、仮に辞任となった場合でも、ペンス副大統領が後継となるはずであり、政権運営はむしろ安定するとの見方に説得力がある。例えば、バノン首席戦略官やナバロ補佐官(国家通商会議委員長)といった過激思想を持つ一派がホワイトハウスから排除されれば、共和党はより強固な一枚岩になれる可能性がある。

第3に、辞任を回避しつつも、「ロシアゲート」問題の長期化が、減税など財政政策に大幅の遅れをもたらすケースはどうだろうか。

これはあり得るシナリオだが、それが米連邦準備理事会(FRB)の利上げ戦略を頓挫させるとは考えにくい。3月に実施した分を含め、「2017年は3回」との連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの中心的な利上げ想定は、財政刺激効果をほとんど計算に入れていないことを思い出すべきだろう。

<6月中には1ドル113円台回復へ>

では、市場心理が好転するきっかけは何だろうか。まずは、世論動向である。

今のところ、トランプ大統領がFBIにかけた「圧力」として米メディアが報じているのは、「(フリン氏は)いいやつだ。(捜査を)終わらせられることを望む」といった程度の会話であり、数々の醜聞を受け流してきたトランプ支持者が今さら失望するとは考えにくい。共和党支持層の「トランプ離れ」が生じないことが確認されれば、一安心となる公算が大きい。

次に、米国景気である。今回のリスクオフが過激になった一因はおそらく、米景気シナリオに対する市場の自信が揺らぎかかっていたことだと推察される。

グローバルな在庫循環の波はやや下向きになっており、製造業関連の指標は米国でも当面悪化する可能性があることには注意を要する。しかし、遅れていた税還付が2月末からは正常化し、3月、4月と個人消費は持ち直しがはっきりしてきた。米国景気は、全体で見れば4―6月期に3%超の成長が見込める状況となっている。

24日公表のFOMC議事要旨で政策メンバーの景気楽観姿勢が明らかとなり、6月2日の雇用統計が堅調な結果となれば、市場は自然治癒に向かうと予想される。先物金利から計算すると、17日に、6月FOMCでの利上げ織り込みは58%まで下がったが、これが50%を下回るほど悲観が深まるとは考えにくい。筆者は、1ドル=110円割れは回避され、6月中には113円台を取り戻すと想定している。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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