[ブリュッセル 20日 ロイター] - 欧州連合(EU)は21日までの首脳会議で、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)で打撃を受けた欧州経済立て直しのために「復興基金」の創設とその関連予算計上に合意した。喜びに沸く各国首脳が説明するように、これでEUが抱える政治面のほとんどの課題がクリアされたのは間違いない。対照的に、域内経済に及ぼす効果は、そこまで大きくはないようにも見える。

首脳会議では財政規律を重視する北部諸国と、被害が大きく財政も苦しい南部諸国が90時間を超える、喧々囂々(けんけんごうごう)の協議を行った末に、返済義務のない補助金を3120億ユーロ(約38兆6880億円)とすることが盛り込まれた。

ただ、この金額は、払い込みが予定される2021-23年度のEUの年間域内総生産(GDP)の0.75%にすぎない。EUのGDP成長率はその10倍以上の規模で縮小している。復興のために資金が最も必要になるのが今後2年半だが、同期間に実際に払い込まれる額はもっと少なくなりそうだ。

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なぜならEUは事務手続きのスピードが非常に遅いからで、シンクタンクのブリューゲル・ブリュッセルの試算では、期間内に支払いが実行される補助金は全体の4分の1にも満たないだろうという。

INGのユーロ圏エコノミスト、カルステン・ブゼスキ氏は、今回の合意の経済効果は「限定的」で、基金の始動が来年1月1日になることを踏まえると、各国が受け取れるのは恐らく来年半ば以降になるとの見方を示した。

もっともミシェルEU大統領がこの合意を欧州にとって「画期的な瞬間」で、域内の結束を示す「具体的シグナル」だと評価したのは正しい。ブゼスキ氏も、協議が不調に終われば、またしてもユーロ圏解体につながる素地が生まれかねなかっただけに、政治的意義を過小評価するのは誤りだと指摘した。

<「ルビコン川を渡る」動き>

EUは過去10年間、債務危機や難民問題に打ちのめされ続け、最近では主要加盟国だった英国が離脱したほか、新型コロナの対応を巡る足並みの乱れも露呈している。

そうした今後の政策や方向性を巡る意見対立によって、EUは欧州統合懐疑派やナショナリスト、保護主義勢力らの攻撃に一段とさらされるだろうとの懸念が広がっていたのだ。

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しかし21日の合意の意味は大きい。EUが何十年がかりで進めている経済統合の深化に、各国が協調して大きく足を踏み込む意思を持っている、という重大なメッセージとなったからだ。復興基金の原資は、EU欧州委員会が初めて市場から調達する。

多くの専門家は、これが「ルビコン川を渡る」重大な動きだったとみている。シンクタンクの欧州政策研究センターのダニエル・グロス所長は、返済不要分と融資分を合わせた7500億ユーロという基金の規模について、何年にも分けて提供される点で小さく見えるかもしれないが、総額は加盟国が打ち出している財政刺激策の合計にほぼ等しくなると強調。また各国の支出は国債を増やし、いずれ消費者が税金として負担を強いられる半面、「EU債」にそうした心配はなく、需要に働き掛ける効果はより強くなるとも指摘した。

一方、各国首脳による環境対策やデジタル化促進の取り組み姿勢が当初よりも後退したことには懸念の声が出ている。環境保護団体は、グリーン化投資に多額の予算が計上されたものの、幾つかの重要な環境プログラム支出が減らされ、環境悪化をもたらす投資への支援を止めるルール整備が不十分だったので、全面的に良し悪しがないまぜになっており、必ずしも高い評価は与えられないと不満を表明した。

ウニ・クレディトのチーフエコノミスト、エリック・ニールセン氏は、目先の経済の落ち込みに対応する資金は確かに必要だが、環境面と技術面で持続可能な経済を創出するためにもお金を使わなければならないと述べた上で、何人かの首脳は「木を見て森を見ず」の状態に陥っていると苦言を呈した。

(Jan Strupczewski記者、John Chalmers記者)