基太村真司

[東京 14日 ロイター] - 新型コロナウイルスが世界経済に暗い影を落とす中、外為市場では好景気下で買われやすいオーストラリアドルAUD=が、意外な上昇を見せている。相対的な金利の高さだけでなく、経常収支の黒字化、主要輸出品である金の最高値更新、対中姿勢の変化など幅広い話題を集めており、日本の機関投資家も巨額の買いに動いている。

<崩れたセオリー、円と豪ドルの同時上昇>

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外為市場で豪ドルは「ハイベータ通貨」と分類される。資産市場の上下動に敏感な反応を示す通貨群の代表格で、経済指標などの自国要因以外にも、主要国株価が上昇するリスクオン局面で買われ、下落するリスクオフ局面で売られやすい特性がある。

その豪ドルが対米ドルで今月7日、0.72米ドル台まで上昇し1年半ぶり高値を更新した。各国で経済活動の再開が感染者数の急増につながり、大統領選を控えた米国と中国の対立が相次ぎ表面化するなど、市場心理に冷や水を浴びせるような出来事が相次いでいるにもかかわらず、だ。

豪ドルの上昇は多くの参加者にとって、おそらく想定外だ。対米ドルで年初来、圧倒的な堅調さを維持しているのはスイスフランCHF=と円JPY=。ともにリスクオフ局面で買われる通貨の代表格で、世界的な経済活動の大停滞を考慮すれば、誰もが納得する動きだ。

ところが7月下旬、豪ドルも対米ドルで年初来プラス圏へ浮上。円を上回るパフォーマンスを見せる場面すら出始めた。「リスクオフ通貨」の代表である円と「リスクオン通貨」筆頭の豪ドルの同時上昇。引き金になったのは、日本勢をはじめとする投資家の巨額買いだ。

<米豪金利逆転、日本勢が過去最大の買い>

今年3月19日、豪ドルは0.55米ドル台と2002年以来18年ぶり安値を更新した。米連邦準備理事会(FRB)が緊急利下げを実施、市場がパニックと化す中で豪ドル売りが止まず、豪準備銀行(中央銀行)は初の量的緩和に踏み切った。

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世界景気の急減速と豪ドルの急落。定石だった動きはその後崩れる。豪ドルはこの日を境に切り返しに転じ、6月には0.70米ドル台と3カ月で3割近く反発したのだ。

日本の機関投資家はこの動きに参戦。財務省によると、5月の豪ソブリン債取得額は6459億円と、これまで最高だった15年2月の3439億円を倍近く上回り、14年開始の現行統計下で最大となった。続く6月も3608億円と、過去2番目の高水準を維持している。

関係者によると、日本勢を含む投資家の買いが膨らんだきっかけは、2年ぶりに発生した米豪10年金利の逆転だ。米金利US10YT=RRが昨年末の2%近くから急低下した一方、すでに1%強だった豪金利AU10YT=RRは緩やかな低下にとどまり、両者は4月に逆転した。豪債が「主要なヘッジ付きソブリン債の中で金利水準が最も高くなった」(証券)ことが、大手投資家の目に留まったのだ。

<急騰の金と豪ドルに相関関係>

注目点は金利ばかりではない。例えば経常収支。昨年第2・四半期に1975年以来44年ぶりに黒字化した後、継続的な資源高などを受けて、黒字幅は過去最大を更新中だ。20万人を超える中国人留学生の受け入れなどで「サービス収支も伸びており、黒字は一時的ではない」(外銀)と、通貨押し上げの一因となっている。

最高値を更新した金XAU=との関係にも関心が集まる。豪は鉄鉱石や石炭、天然ガスなど世界屈指の鉱物燃料輸出国として知られるが、実は金の産出量も中国に次ぐ世界2位。輸出額の4%を占める主要商品だ。最近の金価格の大幅上昇で、主要産出国として恩恵を受けるとの連想から、金価格の上昇が豪ドル買いにつながっている。

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<対中姿勢の硬化が招く「リスクオフの豪ドル買い」>

親米的とされる与党保守連合を率いるモリソン首相が、対中姿勢を硬化させていることも、豪ドル相場の大きな注目点のひとつだ。

豪は中国が最大の貿易相手国で、貿易全体の26%、輸出に限れば32%が中国向け。前ターンブル政権までは親中姿勢が目立ったが、モリソン首相は今年4月、世界保健機関(WHO)加盟国は新型コロナの調査に協力すべきとして「中国などがこの目標を共有するよう望む」と名指しした。

当然、中国は猛反発。牛肉輸入制限などの報復措置に出たが、首相はインドと防衛協力を強化するなどして、中国をさらにけん制。7月には今後10年間で国防費を4割増やし、インド太平洋地域を重視する考えも示した。

元シティバンクのチーフ為替ディーラーであるCKキャピタルの西原宏一氏は、在豪投資家との定期的な情報交換を通じ、豪政府の姿勢変化は通貨にも大きな力学的変化を引き起こしていると指摘。「親中路線の修正は経済的な依存度の低下にもつながる。そうなれば中国株安が豪ドル売りに直結した市場の力学には変化が生じるだろう。もともと食料やエネルギーの自給率は世界トップ級の国。金との相関もあれば、長期的には『リスクオフの豪ドル買い』が発生するようなことになるかもしれない」と話している。

(編集:内田慎一)